小説と音楽を携えて森を歩く
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2016-01-12 (火) | 編集 |
少年は小学2年生になっていた。
わらぼっちで遊んでいた時に聞いた不思議なメロディーはその後聞こえてこなかった。
そのメロディーは青年になったある時にまた聞くことになるのだが、
それまでは記憶の奥深く沈み眠ることになる。
そしてそれを聞いた時鮮烈な記憶がよみがえることになるのだが・・・

先生「今日の算数の時間は99の授業です。」

少年は算数はあまり好きではなかった。
数の計算はどこか殺伐として機械的で人の温かみが感じられないことに起因していたから。
しかし新しいことには好奇心がそそられたのか99だけは目を輝かして
先生の授業に耳を傾けていた。

いちいちがいち、いちにがに、いちさんがさん・・・
まるでメロディーに思えるその口調が耳障りが良いのだ。
にはじゅうろく、にく・・・といった時、隣の子が19と口ずさんだ。
少年の頭にはメロディーとしてにくじゅうくと刷り込まれてしまった。

先生「今日の99の授業はこれで終わりますが、清掃が終わった後に、
一人一人99を言ってもらいます。できた人から順番に帰れますので頑張ってね。」

今で言えば簡単なテストなのだろう。
清掃が終わった放課後・・・時間帯はまさしく放課後なのである。
列に並んで先生の前で2の段まで99の暗記を披露するのである。
最後まで間違えず言えた人はランドセルを担いで帰れるわけだ。

一人二人と帰れるものがいて、少年の番が来た。
1x1=1・・・2x8=16、にくじゅうく・・・
先生「列の最後に並び直して」・・・

次もまたにくじゅうく。
先生「はいまた並んでね」
少年はどこが悪いか全く気付いてなかった。

3度目も同じ箇所で間違えた。
4どめはさすがに前の生徒の99に耳を傾け集中して聞いていた。
1x1=1・・・2x7=14、
ここまで間違っていない。
2x8=16、2x9=18・・・!
19じゃなくて18か。

4どめで正解を言えてようやく帰れることができた。
少年は何事もあの不思議なメロディーを聞いてからリズムや調子で
ものを暗記する癖が付いていた。

2x9=19の刷り込みがどこから来たか覚えてなかったが、
19という数字だけが少年の記憶の奥深く刻まれたことは、この算数の授業のせいであった。
この数字がこの先ずっと後になって青年になった時思わぬ幸運をもたらすのだが、
少年にとってそれは知る由も無い。

ただ少年は苦手な算数をこの時から面白いと感じるのだから、間違いというものもは
案外人の成長に良薬になるものである。

少年は3年になって誰よりも早く99の最後の段を卒業したのである。
そして苦手だった算数が一番好きになるのだから、人ってわからないものである。

ーーーーーーーーーーー

青年は病院のベッドの上で目を覚ました。
手足が火照り、喉がカラカラに乾いていた。
なぜこんなところに寝ているのか全くわからなかった。

もしかしたら死後の世界か?

そんなことを考えていたらドアが開いて看護婦が入ってきた。
目がくりっとしてぽっちゃりした可愛い看護婦さんだった。
年の頃は同い年の24、5くらいに見えた。

看護婦「お加減はいかがですか?」
青年「気分は悪くないですが喉が渇きました。」
看護婦「そうでしょうね。2日間寝ていたのですから。番茶を持ってきました。」
青年「ありがとうございます。」

青年は差し出された番茶を音を立てて「ゴクゴク」と全部飲み干した。

看護婦「それだけ飲めれば大丈夫ね。(^^)」

青年「どうして私はここに寝ているんですか?」

看護婦「道路で倒れxx証券の・・・銀行員だったかしら・・・
その方が救急車を呼んでこの病院に運び込まれたのよ。
覚えてないのも無理はないわね。」

青年「その方の電話番号か住所、もしくは勤務先はわかりませんか?
もちろんお名前もですが。後でお礼をしたいのです。」

看護婦「外来受付の事務の方で控えていると思います。
後でそちらで聞いてください。」

青年「ありがとうございます。ところで病名は何でしょうか?会社へ説明しないといけないので」

看護婦「後で先生の回診がありますのでその時説明があると思います。
それまで少しのんびり休んでいてください。あなたには休養が何よりも薬になると
先生が言ってましたよ。」

青年「そうですか。わかりました。」

青年は会社への無断欠勤を気にしていたが、金曜に運び込まれたのなら今日は日曜日だ。
上司に今日のうち電話して事情を話し、後1週間の有給を取ろうと考えた。
そして電話して全て手を打った後ベッドで深い眠りについた。

意識が深い暗闇に吸い込まれる刹那、遠いところから、

「君はまだやることがある、死んではいけないよ。」

そして青年は死んだようにまた眠りについた。

ーーーーー

一郎は病院のベッドの上で米寿を迎えていた。
妻は傍でリンゴの皮をむいていた。
一郎は外資系の会社を定年退職した頃を回想していた。

まだまだ働ける体で気力も十分あった。
最初に選んだ仕事が配達の仕事だった。
普通免許もあるし、運転歴はゴールド免許の優良ドライバーなのだ。
お客様相手の商売も手馴れていて配達の仕事にうってつけで、
採用試験位は一発で合格した。

時給は5分の1近く下がったが時給は問題ではなかった。
ただ遊んで暮らすことに慣れていなかったので、仕事さえできれば良いと思っただけである。

一郎はそんなことを思い出しながらベッドから身を起こした。
もう後何年も。いや数ヶ月かもしれない。寿命が尽きかかっている。
自分の体のことは自分がよく分かる。

妻が・・・カミさんが心配そうな顔をしながら手を背中に当て起きるのを手伝った。

そんな時どこからともなく歌声が聞こえてきた・

「落ちてくるならー今度はもっとー高く、高く、打ち上げようよ〜♪」

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